第10章 急転直下(銀八side)
俺は有頂天になっていたのだと思う。だから、ついつい言ってしまった。
「先生も可愛いです」
俺は本当にそう思って言っているのに、先生は、
「うん、時々女子生徒に言われる」
とさらっと流してしまった。
ちぇー。
「女子生徒の同性に対する『可愛い』って、またニュアンスが違うんだよね。できれば私としては、妙齢の男性に『可愛い』って言われたいところだな。そしたらすごく嬉しいんだけど、誰も言ってくれない」
「……」
あの、俺、妙齢の男性じゃないんですか。
そう、20代の先生にとって16歳男性は妙齢じゃないですか。
そうですか。
落ち込んでいる俺には全然気づかないで、先生はさらに自己分析の言葉を続けた。
「私の性格が攻撃的だからよね。同世代の男性にとって可愛くないんだろうな、と思うよ」
「そんなことないです、先生は可愛いです」
もう一度、今度はもっと大きな声で言ってしまった。
先生は少し驚いたように俺の顔を見て、それから顔をほころばせた。
「ホストって、やっぱり、女性の気分をアゲてくれるのね」
ああ、そうじゃないんだけど。
全然そうじゃないんだけど。
ホスト用のお世辞じゃなくて、俺は心からそう思っているんだけど。
「本当にそう思ってるんです」
そう言った言葉も、むなしく空をさまよう。
先生の心には届いてない。
俺が開けます、と言ったのに、大丈夫、と言って、足で(!!)資料室のドアをガッと乱暴に開けた先生を見ながら、確かに先生は男前だよな、と思う。
そこらへんの男より、よっぽど頼りがいありそうだし。
だけど、先生自身が言ったんじゃん。
「可愛い」はギャップだって。
普段カッコいい先生だからこそ、俺には先生の可愛いところばかり見える。
言葉って、もどかしい。
この腕で抱きしめて耳元で何度も囁いたら信じてくれるのかな。
押し倒して散々甘く嬲りながら言ったら信じてくれるのかな。
そんな機会、一生巡り会えないかもしれないけど。