第10章 急転直下(銀八side)
10月に入り、めっきり風が冷たくなった頃、久しぶりに制服のブレザーに腕を通すと、肩が何となく窮屈になっていた。少し前に愛里先生から「夏休み前より身体が大きくなった」と言われたけど、本当にそうなのかもしれない。
そういえばバイト先のスーツもきつくなった気がしたけど、俺みたいな下っ端バイトのスーツはそもそもお仕着せだから、身体が合わなくなれば合うスーツに変えることができる。
だけど制服はそういうわけにはいかない。
あと1年半の高校生活、これ以上身体が大きくなって、制服入らなくなったら、どうしよ。
放課後、愛里先生の授業のノートを集めて資料室へ運ぶ。
国語係を拝命している俺の仕事だ。
さすがにクラス全員分のノートとなると、かなりの量になって、ずしりと腕にくる。
廊下を歩いている途中で、愛里先生が女子生徒に数人に囲まれて質問を受けているのに出くわした。
そのまま待っていればいいかと、ノートを持ったまま廊下で質問が終わるのを待つ。
そんな俺の姿を、1人の女子生徒が見つけ、寄ってきた。
昨年同じクラスだった女子生徒だ。
「銀ちゃん、ノートたくさん持って何してるの?」
「姫川先生の授業ノート集めたんだよ。国語係だからな」
「銀ちゃんが国語係って……、何か似合わないね」
うるせえな。自分でもわかってるよ。
「銀ちゃん今年は姫川先生に習ってるんだ。夏期講習だけ受けたんだけど、羨ましいね」
「そう?」
「うん、すごいおもしろかった。普段の国語の授業も姫川先生が教えてほしいくらい」
それはそうだよ。
先生の授業は、普通の国語教師の授業とは、ひと味もふた味も違うよ。
とんでもねえお門違いなのはわかってるけど、何故か俺が自慢したくなった。
「先生待ってるんだ」
「そう」
「私も付き添いなの。質問終わるまで待ってるのよ」
手持ちぶさたらしい女子生徒は、制服のポケットをごそごそやり、ヘアピンを出した。
「銀ちゃん、意外に横の髪の毛あるんだね。目に入っちゃうから留めてあげる」
え?え?え?
こっちはノートを抱えて手が使えないから、抵抗しようがない。
頭の右側にピンがぐっと差し込まれた。
「あー銀ちゃん可愛いね!似合う!!」
「……」
あのう、俺完全におもちゃになってるよね。