第9章 風は秋色(銀八side)
先生は続ける。
「君は、自分たちが文化祭でするのは金儲けではなくて経済の勉強の一環だ、と主張して企画を通したはずよね。それなのに、今日の授業態度は何だ。授業をおろそかにするんなら、そんな企画今から中止しなさい。授業をおろそかにする生徒は、うちの学校には要らない」
「……」
「君たちを支持した先生たちを裏切ってるのよ、それがわかってるの?」
「……」
「担任の先生が、他の先生を説得して回ったのもわかってるの?」
「え?」
俺たちは顔を見合わせた。
温厚だが、生徒から見てさえ影の薄いうちの担任が、他の先生を説得している姿など、想像できなかった。
「ヤマウチ先生は政経が専門じゃき、顧問をお願いしちょる。けど、書類上のことじゃから自由にやれと笑いながらおっしゃったきに……」
「それは、君たちにのびのび活動させるための親心でしょう。私のところにもヤマウチ先生が来たわ。協力してやってくれって。他の先生からも出資が集まってるでしょ?それは全てヤマウチ先生が説得してくれてるのよ」
そう言って愛里先生は俺たちの前に、出資額を書いた書類を置いた。
「君たちが、きちんとした態度を取らないと、ヤマウチ先生が信頼を失うの。結局、遊ぶ金がほしさにやってる企画なんだろうって、誰もが思うわ。同じような態度を続けてみなさい、そうでなくても反対している教師はいるんだから、私が手を下すまでもなく、君たちの企画はやめさせられるわ」
「……」
「坂本くん、これから君が授業も手を抜かず、企画も手を抜かずに頑張れるなら、私も出資する。ヤマウチ先生と一緒に他の先生の説得にも回る。それができないんなら、私も一教師として、君たちに出資することはできない」
「……心を入れ替えます」
「ヤマウチ先生の顔をつぶさないでね」
「はい」
辰馬が標準語で答えるのは珍しい。
それだけ真剣になっているということなのだろう。
「銀八、わしはヤマウチ先生のところに言って謝ってくるぜよ。お前もわしに誘われた側なのに、共犯者みたいに付き添わせて悪かったのう」
「……」
辰馬が俺にまで頭を下げることなんて今までになかったから、正直かなり驚いた。
驚いて、何て言葉を返していいのかわからないまま立っている俺を尻目に、辰馬は資料室を出た。
後には、俺と、愛里先生が残される。