第9章 風は秋色(銀八side)
その一学年下の陸奥という女が辰馬としょっちゅう一緒にいるところを見ていたから、俺はてっきり辰馬の彼女なんだと思っていた。
だが、辰馬は「あいつと合体なんてごめんじゃ。わしはおりょうちゃんしか見とらん」と言い、陸奥は陸奥で「金勘定しながら口説きにかかる男と付き合うなんてまっぴらごめんじゃ」と言う。
おりょうちゃん、って、あのショートカットの今時珍しいヤンキースタイルの子だよな。確かに可愛いけど、辰馬も変わった好みしているのな。
いや、まあ、当人たちが納得しないのならば付き合うとか無理だろうけど。正直俺は、一緒に準備して2人と接していくうち、相当こいつら相性いいんじゃね?と思えてきたけどな。
それともこれは、俺の頭が恋愛モードで季節外れのお花畑だからなんだろうか。
そもそも辰馬の野郎、陸奥とのオツキアイは合体を想定しているくせに、おりょうちゃんとやらには完全プラトニックなんだぜ。つーか完全にあいつの片思いだから。まあ、人のこと言えない気もするけど。
だが、時間を惜しんだ辰馬が、授業中に文化祭の準備をこっそりしていたのがバレてしまったのは、ちょっとまずかった。
しかもよりによって、愛里先生の授業だった。
愛里先生は、最初「坂本くん、別のことしないで、ちゃんと説明を書き入れなさい」とだけ忠告した。
その忠告があったにも関わらず、再び別のことをしているのがわかった時、愛里先生は辰馬の席にやってくるが早いか、何やら資料らしきものを取り上げ、ビリビリに破り捨てた。
一瞬の出来事だった。
辰馬本人が声を上げることさえできなかった。
静まりかえる教室。
「授業をナメてんじゃねえ」
低い声で先生が言ったあと、何事もなかったかのように授業は再開されたが、うだうだ説教されるより、そっちの方がずっと怖かった。