第9章 風は秋色(銀八side)
そこから、文化祭に向けて準備が始まった。
辰馬の暗躍で、教室も使えるようになったらしく、半分弱を調理スペース、残りを無料休憩所として、椅子とテーブルを準備し、客に解放することにした。
「ずっと学校中を動き回って、客は疲れきっとるはずじゃ。無料休憩所として解放する方が客は来る」
それが辰馬の持論だった。
(正直俺は、文化祭に参加したことがないからよくわからない)
あくまでクレープは、廊下に向かって屋台のように売り出し、歩きながら食べたい客はそのままテイクアウトすればいいし、座って食べたい客は無料休憩所に入ってもらう。
座ると今度は飲み物がほしくなるだろうから、頼めば飲み物をオーダーできるようにしておく。
お茶やジュースが紙コップ1杯100円。
「基本的に食い物屋は、ドリンクでボッてるんじゃ」
これは俺にもわかる。バイトで湯水のように消費されている高価な酒も、原価は一体いくらか、ということだ。
正直お茶紙コップ1杯100円って、酒じゃないけど、相当なボッたくりだと思うぜ。
だけど、これも文化祭では普通の値段だそうだ。意外に文化祭って、汚ェ商売なのな……。
そんな感じで、いよいよ風が秋を感じさせる時期になっても、俺は小忙しい日々を過ごしていた。
ソコソコ器用な俺も、最初はクレープ生地を丸く焼くのに手こずったけど、だいぶ慣れてきた。
辰馬たちがちょいちょいうちの施設の調理場にやってきては、俺が作った試作品を口にする。
やっぱり中身は生クリームがたっぷり入ってる方がいいよな、とか、バナナチョコクレープもいいな、とか言い合いながら、試行錯誤を繰り返していく。
俺のクレープの焼き方がだいぶサマになって来たのと同時に、金勘定をしていた辰馬の仕事も目途が立ってきた。
株券もしっかり売り出すことにして、生徒は3000円まで、教員やOBは5000円まで出資することができるようにしたのだという。
一方、文化祭らしく店の内装や衣裳を考えるのは、辰馬と同郷だったという、一学年下の女が一手に引き受けていた。
内装なんか俺や辰馬のセンスじゃ客も来ないだろうから、やっぱり女子に任せたほうが良さそうだ。
正直衣裳はどうでもいいけど(だってどっちみち、あんまりエロいのとかって無理じゃん)、一応文化祭では衣裳コンテストもあるから、揃いの衣裳を準備するのだという。