第9章 風は秋色(銀八side)
「ねえ、坂田くんって、身長どのくらいあるの?」
「んー、172、3センチじゃないっすかね。4月に測ったらそんくらいでした」
「体重は?」
「60キロくらいかな」
「そっか。こんな甘いもの飲んでも筋肉ついて細身なのは、やっぱり若いからかな」
「愛里先生、俺のスリーサイズにそんな興味がありますか?先生だったら大歓迎です。何ならココで脱いでもいいですよ」
そう言って俺はネクタイをゆるめる。いや、一応冗談のつもりだけどな?
「職員室でワイセツ物出すのはやめて」
「じゃあ、上半身だけね」
「や・め・て」
「じゃあ、資料室で2人っきりで確かめます?」
「そうじゃなくて。こうやって他の生徒の中で見てると、坂田くんが夏休み前より大きくなったような気がするの」
「そうですか?」
「男の子って、急に大人になるわよね」
「犬もそうですよ」
「え?」
「俺、犬みたいな可愛い生徒なんでしょ?」
「……そうね」
あ、認めちゃったね。ちぇー。
「先生は、甘い物苦手なんですか?」
「苦手ってこともないけど。コーヒーはブラックだと眠気覚ましになるってだけ。カフェオレだって飲むわよ」
「お菓子は?」
「チョコレートもビターな方が好きかな。あと、本物だったらいいんだけど、いちごフレーバーとか、バナナフレーバーとかは苦手」
「そっか。じゃあ、いちご牛乳は先生の口に合わないですね。残りは俺がいただきます」
俺はそう言って、うっすら先生のルージュがついたままのストローをくわえ、中身を飲んだ。
「!!」
先生は驚いた顔で見ている。
「……ちょっと、職員室で何してるの……」
先生が小声で言う。
「え?間接キスしたってこと?」
俺も小声で返す。
「でもさ、先生。資料室だったら、こんなもんじゃ済まないよ?わかってるでしょ、先生」
「……」
「あー、大丈夫。誰にも言わないから。先生と秘密共有できて嬉しいくらいだから」
「……ついでに、今日話したこと、授業でやるから、他のクラスメイトに言っちゃだめよ?」
「わかってます」
俺は素直に答えた。
先生と秘密が共有できるなんて嬉しいよな。
だけど……、愛里先生がとんでもない秘密をもっていること、この時の俺は知らなかった。
しかもその秘密までも、俺が共有することになるだなんて。