第1章 始まりは突然に(銀八side)
いやー、ジャンプじゃない本をカバンに入れて学校へ通うようになるとは思ってもみなかった。
中学の頃からの腐れ縁の全蔵も驚いていた。そりゃそうだよな。こいつとはコンビニに一冊残ったジャンプをめぐって殺しかねない争いをしたこともある俺だから。
いや、ジャンプへの愛が薄れたわけじゃないんだよ。
ジャンプへの愛なんて、薄れることはないんだけど、でも。
愛って増えるものなのな…。
「ちょっと、お前、何鼻血出しながら本読んでるの」
俺はせっかくの小説の冒頭部分に鼻血を垂らしてしまった。
「ほれ、ティッシュやるきに!」
後ろの席の、これまた腐れ縁の坂本が渡してくれたのをありがたく頂戴し、鼻に詰めた。
「お前、ノーベル賞読みながらなんで鼻血出すんだよ」
あきれたように全蔵が言う。
「いやその、これちょっと見てろよ。」
(だって「指が覚えている」とかエロすぎだろ)
俺の指した箇所を見て、全蔵も鼻血を垂らした。
「お前もか!」
全蔵もティッシュを鼻に詰める。
「それにしても、借りた本に鼻血垂らしたらマズイよな。新しいの買って来ようかな」
「じゃあ、おれが買って来るから、仲介料込みで払え。1000円」
「なんでだよ」
「ティッシュ代も込みじゃ」
「どんだけ高ェティッシュだよ」
「それにしても銀八、お前の鼻の下をそれだけ伸ばさせるんだから、あの教師の手管はすごいの」
「全くだ。それとも、お前みたいな仕事をしていると、逆にホストクラブとは縁のなさそうな女がいいのかねー」
こいつら二人は俺のバイトのことを知っている。
「手管って…、別に俺、何もされてねーじゃん」
「お前、あの教師の噂を聞いたことないのか」
「噂?」
「生徒と教師を食い散らかして、学校やめた奴もいるって噂だ。生徒に手を出したとしたら、さすがにクビは免れないだろうから、単なる噂だろうが…。でも火のないところに何とやらだ。とち狂った男がいてもおかしくない」
「俺も聞いたことあるぜよ。…まあ、あれだけ別嬪なら勝手に惚れる男もおるじゃろ」
「ふーん」
俺は気の抜けたような返事をして立ち上がった。
「ま、銀さんの人生はとち狂ったとっから始まってるし?ちょっと狂わされた方が、まともな道に戻れるかもしれねえから」
二人に手をヒラヒラと振ると、俺は国語科資料室に向かった。