第9章 風は秋色(銀八side)
「じゃあ、ここからは特別授業。ちょっとだけね。坂田くん、『こころ』の青年は、誰と結婚したと思う?」
「へ?」
「考えてみて?」
え?だってこの小説には、青年の相手になるような人なんて出てきてないよな?
出てきた女性は、えっと……。
そこまで考えて、俺は一つの答えにぶち当たった。
でも、これって……。
「も、もしかして、『先生』の奥さんの『静』?」
俺の言葉に、愛里先生はニヤリ、と笑みを浮かべた。
「そう。そう考えると、坂田くんが挙げた根拠、つじつまが合ってこない?」
そうだ。
「今までの奥さんの訴えは感傷(センチメント)を玩ぶためにとくに私を相手に拵えた、徒らな女性の遊戯と取れない事もなかった。もっともその時の私には奥さんをそれほど批評的に見る気は起らなかった。」
というところも、
「その時の私には『奥さん』をそれほど批評的に見る気は起らなかった、だけど、『奥さん』と恋をし結婚した今の私には、批評的に見る気が起る」
という意味に取れるのだ。
「え、でもまさか、いくら未亡人萌えだからって……」
「うん。実際この説を発表した研究者がいたけど、結構批判されちゃったみたいよ」
「あ、それが通説なわけじゃないんですね」
「そう。さすがに、当時の倫理観では無理かもね」
「でもこの2人、何歳くらい年齢離れてるんですか?」
「ふふふ。それは、さすがに授業でやるから、ナイショ。考えておいて」
「だって、最低でも10歳ぐらいは離れてるでしょ?だったら……」
そう言いかけたとき、俺は、目の前の先生と俺が、「10歳ぐらい」離れていることに気がついた。
そうだよな、10歳ぐらい離れていても、誰かのものだったとしても、好きになったら、そんなこと関係ないよな、自分のものにしたいと思うよな。