第9章 風は秋色(銀八side)
二学期の始業式の日。
俺はルンルン気分で(死語だ)国語科資料室に向かった。
ちゃんといちご牛乳も用意した。
愛里先生の「宿題」の答えを披露して、いちご牛乳を飲ませてあげる……っていうか、またちゅーしたいっていうだけなんだけどね。うん。
だけど、資料室に入ろうとした俺に、たまたま通りかかった全蔵が声をかけてきた。
「姫川先生なら、資料室にはいないぞ。さっき職員室にいた」
「……」
それならそれで中で待てばいいか、と思ったが、資料室の扉は鍵がかかっているらしく、開かない。
「やっぱり職員室に行った方が早いんじゃないか?」
全蔵は親切で言ってくれたが、正直、かなりがっかりした。
職員室では、絶対に2人きりにはなれないからだ。
とぼとぼと職員室に入っていくと、愛里先生は別の生徒の相手をしているところだった。
ますます、ちぇー、だ。
こうやって職員室にいるのを見ると、改めて、愛里先生は教師なんだよな、と思う。
資料室にいるときの先生は、授業中と違って雰囲気が柔らかくなるし、それを俺が独占できていると思うと、俺は先生にとって特別な生徒なんじゃないかって、うぬぼれた気分になる。
だけど、こうやって親しげに他の生徒の相手をしているのを見ると、俺だけの愛里先生じゃないってことをハッキリ思い知らされる。
個人的な指導の内容を聞いてしまうのもどうかと思うけれど、声が大きいので耳に入ってきてしまう。
「そもそも、ですます体で小論文書くってどうなの?」
「その方が文字数がごまかせるかなって……」
「何考えてんの?中身スッカスカの小学生の作文で受かるとでも思ってるわけ?」
「は、はあ……」
相変わらず手厳しいよな、先生は。
でもこの前資料室で、作文を「よく書けてる」って誉めてもらった俺は、ちょっと優越感に浸れた。
「この結論も小学生並だからダメ。最初の部分で立てた自分の論から浮いちゃってるでしょ」
「やっぱりそうですか……」
「わかってるんだったら、ちゃんとしたの書いてから持って来なさいよ!原稿用紙なんて腐るほどあるでしょ!」
「すみません……」
「この部分とこの部分をちゃんと対応させて書くの。全部書き直し」
「ええっ」
「最初から書き直した方が早いわ」
「はい……」