第8章 銀色の余韻(girl's side)
銀髪の少年が部屋を出たあと、私はソファに腰を下ろし、ため息をついた。
何で、あんなことをしたんだろう。
いくら求められたからといって、生徒に自分から口づけるだなんて。
公にされれば、首が飛ぶ。
もちろん、あの少年は私のしたことを口外することはないだろう。
しかしそんな曖昧な判断に甘えて、自らの地位を危うくするような行為をした自分が信じられなかった。
でも確かに私は、あの少年に触れたいと思ったのだ。
まだ高校生なのに、物事の本質を射貫くような瞳。
その瞳で見つめられながら、話をするのはとても楽しい。
彼がまた、私の話に興味をもってくれているから、なおさら楽しくてのめり込んでしまう。
私の授業にも、ひいては私自身にも、存在する価値があるのではないか、という、強烈な自己肯定感がもたらされる。
そしてその彼が私に触れようとしたから、たぶん本能が、理性を鈍らせたのだ。
ソファに腰を下ろして、可愛らしくいじけていた彼。
その姿が、どんなに異性の心を動かす魅力をもっているか、彼は知っているのだろうか。
ホストをしているというのだから、計算ずくなのか。
あるいは、天性の才能があって、無意識でしていたのか。
どちらにしても私は、その彼を自分のものにしたいと思って、制服のネクタイに手をかけた。
犬の首輪を引くように。
誰に身体を投げ出しても、心は渡すまいとしていたこの数年間。
もう心を誰かに渡して苦しい思いをするのは避けたい。
そう思って、誰とも深い関係にはならなかった。
身体が疼くときには、身体だけをつまみ食いすれば、それで済んでいた。
だけど、彼を見ていると、心が疼く。
彼はきっと、自分の周りにいるのとはタイプの違う女に、物珍しさから、好意のようなものを見せてくれているのだろう。
私を口説いた口で、私に触れた手で、別の女を悦ばせているのだろう。
それがわかっているのに、彼の存在が、私の心に染みてくる。
誰にも心を渡すまい、その決意のためにしている指輪を、ぎゅっと握りしめたまま、私はしばらく動くことができなかった。