第7章 夏の終わりのエトセトラ(銀八side)
「……これじゃだめ?」
俺の頭を撫でながら、上目遣いでそう聞く先生があまりにも可愛くて、俺は思わず意地悪を言ってしまった。
「先生って、俺のこと、犬かなんかだと思ってません?」
「それは……」
「……ちょっと思ってるんだ」
「だって、ごほうびごほうび!って寄ってくるから」
「じゃあ、ごほうびに、コーヒーを口移しで飲ませてください」
「は?」
「俺って犬みたいなもんなんでしょ?犬にちゅーする飼い主だってよくいるじゃないですか」
「そんな……ホントの犬じゃないもの」
「じゃあ、俺は先生の何ですか」
真剣に先生の瞳をのぞきこむ。
答えなんか聞かないでもわかっているけど、聞かずにはいられない。
「生徒……可愛い生徒に決まってるじゃない」
俺は先生の手をつかみ、身体を寄せた。先生は俺から逃げるように後ずさったが、ソファに阻まれ、それ以上は逃げられない。
もう片方の手でソファをつかむと、ソファの角に追い詰められた先生の身動きが取れなくなる。
「ちょっと……、坂田くん……」
「可愛い犬みたいな生徒?……俺、ちゃんとした、男ですよ」
「わかってるわよ」
「わかってないですよ。こんなところで無防備に寝ちゃって。そのままナニされてもおかしくなかったんですよ。それともいつもこうやって男を誘ってるんですか?」
「な、何言ってるの……」
ホント、何言ってるんだろうな、俺。
先生のことが好きで仕方ないくせに。
先生の目を自分に向けさせたくて。
ひどいことを言っているのがわかっているのに、止まらない。
「それなら今からでも、俺がその誘いに乗ってもいいですよ」
俺は耳元で囁いた。
「このままキスしたら、コーヒーの味がするかな。それとも、もっと別の所味わってみてもいいけど」
「……坂田くん……やめ……」
その時だった。
下校時刻を知らせるチャイムの音が校内に鳴り響いた。
思いもかけない大音量のチャイムに気をとられた瞬間、腕の中から先生が逃げていった。
「あ」
ああ……、もう少しだったのに。
もう少しで、……アレ?もう少しで……って、俺どこまでしようとしたんだろ?