第7章 夏の終わりのエトセトラ(銀八side)
「銀ちゃんさー、ホストから足を洗うつもりなの?」
久々に転がり込ませてもらった女の家のベッドで、そんなことを言われる。
「いや、お金のことを考えたらやめたくないんだよね。こうやって華さんのところにも遊びに来られるしさ」
「これは帰るのがめんどくさくなって転がり込んでるだけじゃん」
「ありがとうございます、いつも感謝してます」
「まあ、私もこうやってたまに銀ちゃんが遊びに来るの楽しいけど。AV女優なんかやってると、今まで通り付き合いを続けてくれる人って少なくなっちゃうんだよね。『華さん』なんて懐かしい呼び方してくれる男、銀ちゃんぐらいしかいないもん」
「だって、俺にとって、華さんは華さんだし」
「まあね、アタシが銀ちゃん育てたようなもんだし?」
「いじめてただけじゃん」
「素直にいじめられてるようなタマじゃなかったじゃん」
2人で当時を思い出してケタケタ笑う。
「あーもうこんな時間だ。華さん、寝ようよ」
「しなくていいの?」
「……あのさ、笑われるかもしれないけど、俺今、剣道部員なんだよ」
「え?また剣道やってるの?」
「そうなの。だから、もう稽古やりすぎて腰が動かないの」
「嘘つけ」
「うん、嘘」
「ふふ。でも銀ちゃんが剣道やってて嬉しい」
「……」
「施設のみんながそう思ってるんじゃないかな」
「……そうかな」
「そうだよ」
「……先生もそう思ってるかな」
「当たり前じゃない」
「……」
涙がこみあげてきそうになって、必死で耐えた。
情けねえな。
「ねえ、銀ちゃん、好きな人でもできた?」
「……」
「黙ってるってことは、できたんだ」
「……よくわかんね」
「何かね、すっかり『オトコ』になっちゃったなーって思って。ホストのバイトをあまりしてないのも、その人のためなんじゃないの?」
「いや、ホストするなって止められてるわけじゃないんだけど」
「でも、他の女に媚びを売って金とるの嫌になったってことでしょ?ちょっと妬けちゃうね。どんな人?」
「うーん。華さんほどじゃないかも」
「ばか。お世辞を言われても嬉しくないよ」
優しいキスが頬に降ってきた。
親愛の情が心からこもったキスだった。
そのまま俺は寝てしまったらしい。
はは。ほんと情けねえ。子供なんだよな、俺もまだまだ。
本当は、誰かに言ってほしかったんだろう。
剣道やっていいよ、って。