第6章 真夏の夜の夢(銀八side)
がば、と身体を起こす。
俺をのぞきこんでいる愛里先生の顔が、真っ先に目に入った。
「花火見ながら寝る人、初めて見たわ」
「……俺、寝てたんですね」
「疲れてるんでしょ。試合の日に試験までさせて、ごめんなさいね」
「でも、目を覚まして最初に先生の顔を見られるなんて幸せ」
「何ソレ」
「シェークスピアの話にあったでしょ?最初に目を覚ました人を好きになっちゃう話」
「『真夏の夜の夢』ね。よく知ってるのね」
「去年英語でやったから」
「でもあの魔法の薬は、そのうち切れちゃうのよ」
「そう。それに俺はもともと先生のこと好きだしね。薬とか関係ないし」
「私、そんなこと言ってくれてもボトル入れたりできないんだけど」
「先生って、俺をホストとしか見てないよな」
「そんなことないよ。可愛い生徒だと思ってます」
「心がこもってないんですけど」
花火が再び始まり、自然俺たちはそっちに目をやった。
先生は屋上のフェンスにもたれ、頬杖をついて、煌めく光を眺めている。
俺は起き上がると、その隣に立ち、花火ではなく先生の横顔を眺めた。
「先生、誰のことを思い出してるんですか。その、指輪をくれた男のことですか?」
先生はこちらを向いて苦笑した。
「指輪にこだわるのね」
「だって、その男が先生の心を今でも占めてるってことでしょ」
「そういうのじゃないのよ。これは、寄ってくる男を深入りさせないためのお守り」
「そうやって何人の男に、深入りさせないようにしてるの?」
「えーっと、ねー……、」
両手を開いて数えようとする先生の動きを遮り、
「ああ、いいですもう。たくさんいるのわかりましたから」
と俺が答えると、すかさず、
「どこかのホストが相手にしている女性の数よりは少ないんじゃない」
と言われる。
俺は首をすくめて、
「万年指名なしホストですもん、俺」
と言ったが、
「うそうそ」
と軽く返された。
「ほんとだって」
「じゃあ、枕営業専門なのかな?」
「そうそう、そっちの方が得意かなぁ……」
と、笑いにしてしまったけど。