第6章 真夏の夜の夢(銀八side)
「今夜花火大会だったんですね」
「ああ、そっか。すっかり忘れてた」
「屋上だったら見えるんじゃね?」
「え?」
「ここの屋上だったら、花火見えるでしょ。先生、花火見ましょうよ。ほら、花火に合いそうな食べ物を買って来ましたから」
本当なら、花火にビール、といきたいところだけれど、さすがに学校の敷地内でそれははばかられた。
俺はいつものいちご牛乳、先生には、迷ったけど雰囲気だけでもと思ってアルコールフリーのビール。
おでん。枝豆。お好み焼き。冷や奴。
「すごい」
「万事屋銀ちゃん、気が利くでしょ?」
「いい仕事するのね」
「先生だったら安くしておきます」
「じゃあ、おつりは取っておいて」
「え?いいんですか?」
「一晩で相当貢がせるホストくんに渡すには恥ずかしすぎる額だけど」
先生は笑った。
いや、先生が相手だったら、お金なんてもらわないよ。
別にもっとほしいものがあるから。
意外にも、屋上は風が通り抜けて涼しかった。
「あー始まった始まった」
遠くに見える花火の煌めき。
しばらくしてから、乾いた花火の音が聞こえる。
いちご牛乳とアルコールフリーで乾杯しながら、俺たちは遠くから紅や金の光を眺めた。
「あー、花火見てると、わたあめ食いたくなる」
「え?わたあめみたいな頭してるのに?」
「うわー傷つく-」
「誉めてるのよ」
「ええー?」
愛里先生と二人、くだらないことを話す幸せな時間。
俺の言葉にケラケラ笑ってくれる先生を見ながら、先生と二人で、浴衣着て花火なんか見に行けたら最高だろうな、と考えていた。
二人で手をつないで、先生の手を引いてあげて。
わたあめ買って。やきそば買って。
花火は、幸せな思い出に直結している。
遠い日の花火。
施設の子供には夏休みに帰省するような習慣はない。
家族旅行なんていうものとも無縁だ。
そんな俺たちを不憫に思ったのか、小学生の頃まで、花火大会だけは毎年連れて行ってもらえた。
浴衣を着せてもらって(それは大体おさがりだったけど)、
屋台のわたあめを買ってもらって。
松陽先生に何度手を引いてもらったことだろう。
今日も施設の子供たちはスタッフと一緒に花火を見ているのかもしれない。
ごめんね、松陽先生。
俺は松陽先生からほとんど全てをもらったのに、何も返せなかった。
松陽先生にもらったものを、俺は誰に返したらいいんですか。