第6章 真夏の夜の夢(銀八side)
学校に戻ると、17時を回っていた。
俺は職員室脇の面談室で、一人再試験を受けた。
剣道部の助っ人をしていた話が広まっているのか、再試験の担当教員はみな笑顔で対処してくれた。
普段の俺は、あまり教師に好かれる生徒ではないから、そんな反応をされると戸惑うくらいだ。
英語と数学の採点をしてもらい、国語の答案を書き終える頃には、長い夏の日も既に暮れなずんでいた。
「三回戦までいったんだって?」
答案を受け取りながら、愛里先生が言った。
「はい」
「このまま剣道続けたら?」
「……」
「ホストの方が楽しい?」
「いや、剣道も楽しいですよ。試合とかじゃなくて……、単純に竹刀を振る楽しみっていうのもあるし」
「そう……。坂田くんの答案待ってたら、お腹空いちゃった。ねぇ、今度は私の助っ人をお願いしてもいい?」
「何でもどうぞ」
先生のためなら、何でもできますよ。
愛里先生は財布から千円札を数枚出すと、
「私が採点している間、コンビニで、夕ごはん代わりのもの、適当に見繕ってくれる?坂田くんがお腹空いてたら、その分も買っていいから」
と俺の手に握らせた。
「ごめんね、貴方をパシリに使って」
「いや、先生を待たせているのは俺の方ですし」
「じゃあ、お願いね」
生ぬるい夜の風が吹き抜けていった。
学校から一番近いコンビニに足を向ける途中、浴衣の女性たちが目についた。
夕涼みをするには蒸し暑い夏の宵。
だが、やはり浴衣姿の女性を見ると、夏らしさに心がなんとなく弾む。
そうか、今日は花火大会か。
試合のことと再試験のことで頭がいっぱいだったから、そんなことすっかり忘れていた。
愛里先生は資料室で俺を待っていた。
「合格してたわよ。最初からこんな点数取ってくれればよかったのにね」
「すいません」
「これからは、試験期間中にバイトしちゃ絶対ダメよ」
「はい。ちゃんと勉強します。特進クラス入ります」
「そ。頑張って」
俺が特進クラスに入るなんてことを全く期待していないことは、素っ気ない答えから明らかだった。
まあ、期待してなくていいけどな。
油断させておいて、時々煌めく銀さんのギャップに惚れてくれてもかまわないし?