第6章 真夏の夜の夢(銀八side)
「坂田くん?」
愛里先生の声で俺は我に返った。
「大丈夫?剣道場にずっといたから体調悪くなったんじゃないの?」
「大丈夫です。そうじゃなくて、俺、先生が来るか来ないかずっとドキドキして待ってたら、心臓がもたないっていうか」
「え?」
「来てほしい人が、来るかどうか待ちながら、試合を迎えるのは、昔から苦手なんです」
ちゃんとした日本語を言えている自信が全くなかったが、俺の訴えがあまりに必死だったからだろう。先生は、そっか、と言って、表情を和らげてくれた。
「わかる気がするわ。私も、人を待つの苦手。何かあったんじゃないかって、悪いことばかり考えちゃう」
「……」
先生が、俺を通して別の何かを見ているような気がして、俺は何も言えなかった。
ややあって、先生が言う。
「そうね。白夜叉殿の気を散らせたら悪いわね。結果だけ、楽しみにしてるわ」
「すみません」
「謝ることないのよ。私もその時期忙しいから、本当に行けないかもしれないし。……あー!!」
「え?」
「行けるはずないわ。その日に補習後の再試験するのよ」
「え?」
「だから、坂田くんの場合は、試合終わってから、再試験に学校戻ってくることになるのね」
「え?」
それは、試合だったからって考慮してくれたりはしないんだろうか。
「七月中に再試験しないと、成績『1』がついちゃうのよ」
ぐ。
「二学期に取り返せば留年はないからいいけど、特進クラスなんて絶対無理ね」
ぐぐ。
「そうね、団体戦で優勝したら、他の先生も大目に見てくれるかもしれないけど」
ぐぐぐ。
「先生ってドSですよね……」
「何言ってるのよ。私は確かにスパルタかもしれないけど。あなたたちみたいな手の焼ける生徒を毎日相手にするなんて、超ドMな性癖と言ってもらっていいはずよ」
うん、そうかもしれないけど。
俺はベッドの中で先生のドMっぷりを見せてもらうほうがいいなぁ。
「じゃあ、金曜日、試合後に学校で待ってるわ。英語・数学・国語。ちゃんと合格してね」
「ふぁーい」
先生の去りゆく後ろ姿に、俺の力無い返事が届いていたか、どうか。