第6章 真夏の夜の夢(銀八side)
団体戦で俺は、ケガした奴の本来入るはずだった次鋒をそのままつとめることになっていた。
二人目だから、勢いをそがないことだけ考えておけばいい。
派手に勝つ必要なんてない。負けない試合をすれば充分役目を果たせる。
そう思っていたのだけれど、いざ対戦相手と向き合ってみると、身体で覚えた技は失われることがないようで。
見に来たギャラリーはほとんど素人だから、構えた瞬間のほとんど怒声に近い音に圧倒され、しん、としていた。
久しぶりの実戦だから、正直集中できてありがたい。
相手の掛け声だけ聞こえるのは、ある意味無音なのと同じだからだ。
相手が面を打ってくるのを払って、飛び込み、胴を打つ。
勝負が決する時の速さは、一秒にも満たない。
その瞬間、相手の表情などは見ていない。
真剣であれば、斬った、斬られた、その瞬間に全てが終わる。
こちらが先に斬ってしまえば、反撃というものは、ない。
だから怖れずに飛び込むだけだ。
刀と自分が一体化した感覚のまま、飛び込むだけだ。
練習試合を終えて、剣道部の面々は新聞部やらエンタメ委員会やらに囲まれていた。
不器用そうな主将がぽつぽつとコメントを出すのも、なかなか好ましいもんだな。
俺はそう思いながら、すっとその輪から離れ、外の水道に向かった。
「銀さん!」
「銀ちゃん!」
水道で顔を洗っていると、何人かの女子に囲まれた。
「銀ちゃんって剣道やってたんだね。カッコよかったー!」
「正直どこで一本決まったのかわかんなかったけど!」
まあ、素人が見たらそんなもんだよな。
「四人目の先輩、いかにも武道やってます、という感じでカッコよかったよね」
おいおい、いかにも武道なのは副将じゃなくて主将の方じゃねえの?
ま、見た目は副将の方がイケメンか。ストイックそうだしな。
「最初に闘った人、あれ同じクラスの人なのに、最初わかんなかった。普段あんまり目立たないよね」
「あ、うちも思った!防具っていうの?あれつけたら別人!」
「じゃあ、お前ら剣道部入ってやれよ」
「ええー、だって剣道なんてやったことないもん」
「マネージャーでも部員がいたら剣道部もつぶれねえみたいからさ」
「えー?銀ちゃんがいるんならいいけど」
「俺は助っ人だから、期間限定なの」