第6章 真夏の夜の夢(銀八side)
剣道場の入り口から、「銀さーーーーん!」と俺を呼ぶ黄色い声がした。
目を向けると、数人の女子が俺に手を振っている。
手を振り返すと「きゃーー」という声が挙がった。
「相変わらず人気があるな。彼女たちにお前のことインタビューしても大丈夫か?」
「は?どういう意味だ?」
「いや、お前の足さばきじゃなくて下半身事情ばっかり答えられて、学校新聞が◯スポなみのエロインタビューになっても困るからな」
「あー、……たぶん大丈夫だ」
「今、間があったぞ」
「俺は基本的に同じ学校の奴には手は出さないから」
練習試合のために、近くにある2校の剣道部の連中がうちの学校を訪れていた。
しかしいずれの剣道部も、これだけのギャラリーを見て、ややギョッとしたようだった。
ギリギリしか人数がいない弱小剣道部のために、しかも辰馬が女子を中心に声かけしたらしくて、剣道場には不似合いな女子も多くつめかけていたからだ。
しかしその中にあって、俺はまだ精神集中ができていなかった。
くっそ。
辰馬が、愛里先生に声をかけたということが頭から離れない。
俺だって、愛里先生にいいところを見せたいという気持ちにはなる。
だけど、俺を根本的に落ち着かなくさせているのは。
過去の記憶。
見に来てほしい人を待ちながら試合を迎えるのは、昔から苦手だ――。
その時、俺の目に愛里先生の姿が映った。
あの指輪をした右手をひらひら振りながら、俺に近づいてくる。
強ばっていた肩の力が、一瞬で抜けた。
「坂本くんがポスターを配ってたから、見に来ちゃった」
「先生、忙しくないんですか」
「試合を見届けるくらいは大丈夫。坂田くんも助っ人頑張って」
そして今度は、俺の後ろにいる剣道部の面々に向かって言う。
「助っ人の出番がないってくらい、みんなも頑張って。ギャラリーはみんなを応援しているんだから、堂々と闘っていいのよ」
「はい!」
「期待してるわ」
そして、先生は、俺の横を通り過ぎる一瞬、
「白夜叉の降臨を見せてくれる?」
と囁いた。
「惚れますよ?」
「期待してる」
先生はそう言うと、流し目で俺のことを見て、すっと離れていった。
ああ、たまんねえよな。計算なのか天然なのか。
女たらしとかいうけどさ。
愛里先生の場合は、人たらしって言うのが一番似合うよ。