第6章 真夏の夜の夢(銀八side)
ポスターを眺めながら、自画自賛し始める辰馬。
「いい紙じゃろ?白と黒のコントラストがハッキリ出る紙だそうじゃ。既に数件問い合わせが来ちょるぞ。ポスターをくれだの、お前の写真をくれだの」
「で?」
「で?ああ、写真は一枚100円じゃ」
「じゃあ、俺へのバックはいくらなわけ?」
「そんなの、こないだのいちご牛乳でチャラじゃ」
「……」
オイオイオイ、肖像権ってものはないのかよォォォォ!
武者震いではなく、辰馬への怒りに打ち震える俺の視界に全蔵が入って来た。
「新聞部も取材に来てやったぞ」
「え?」
「ついでにエンタメ委員会も来てるぞ。動画編集して、学校説明会や文化祭で流すらしい」
「は?」
それも辰馬のさしがねなのか。
辰馬、お前の人脈の広さはわかった。
わかったけど、コマとしていいように使われる俺の身になれっての!
「これでいよいよ負けられなくなったの!!ガッハッハッハッハッ!!」
「大丈夫ですよ。坂田さんなら、今日の対戦相手になんか負けるはずないです」
「おいおい、お前、自分はギプスしてるからって、呑気に言ってんじゃねえぞ」
ギプスごと肩をすくめられると、何か腹立つな。
「そうそう、職員室にもポスター配ったきに、先生方も来るぜよ。もちろん、姫川先生もじゃ」
愛里先生が、見に来る?
俺の剣道の試合を、見に来る?
一瞬過去が俺の頭をよぎった。
そして次の瞬間、
「何だよソレ。余計なことすんな!」
自分で思ったよりも冷たい声が出て、やべ、と思った。
「でも、姫川先生もポスター誉めてくれて、楽しみだと言っちょるぞ。銀八、お前も、補習以外でどんだけ頑張ってるかアピールできるじゃろ。補習最終日の試験が悪くても、手心を加えてくれるかもしれん」
「……」
この時ばかりは、辰馬の鈍感さに救われた気がする。