第1章 始まりは突然に(銀八side)
「じゃあ、教科書に入る前に、このプリントを見て」
ふーん、教科書使わないのか。マニュアル嫌いの俺の中で、さらにポイントが上がった。
昨年までの国語の授業は、教科書を読んで、教師が解説して、それをテスト前に覚え込めば、終わり。
ろくに授業聞かずに寝てるか、サボるかしていた。俺も、同じクラスの奴にノートを借りれば(そいつには『北斗の拳』も借りた。ジャンプを愛する同志だ)ソコソコの成績がとれた。
でも、つまんねぇなぁ、って思ってた。
学校だから仕方ないんだろうけど、教科書に載ってる「オハナシ」って、お説教臭いものが多い。
道徳の授業か、っていうくらいのお説教臭さだ。
『走れメロス』だって、あれよく読んでみたら、メロスは途中で倒れるけど、体力が回復してもう一度立ち上がる。メロスを立ち上がらせたのは、友情なんてシロモノではなくて、「体力の回復」だからね?
道徳とはかけ離れた人生を生きてきた俺にとっては(だってほら、俺の両親が道徳的だったら、俺はこんな人生の始まりを歩むことはなかったんだろうし)、お説教臭い国語の授業は睡眠時間と同じだった。
多分同世代の多くの人間より、オトナの思惑に影響を受けた俺は、かなり醒めた目で文章を読むし、何しろジャンプ歴=物心付いた歴の俺は、ストーリーを追うのが得意だから、国語の試験だって楽勝だったけど。
そんなことを思い出しながら、目の前のプリントに目をやる。
「◇次の文章を読み、後の問いに答えよ。
なお、文子の母は、菊治の父とも菊治とも関係を持った女性で、文子はそのことを知っている。文中『母の志野』とあるのは、自殺した文子の母が愛した形見の茶碗であり、菊治と文子がその茶碗でお茶を点てようとしている場面である。」
えーと。
要するにこの文子って人、親子◯◯◯◯なさっておられられられ…。
これ国語の授業オオオオオ!?
昼ドラじゃないのオオオオオ!?