第1章 始まりは突然に(銀八side)
一応家賃代わりの食費はバイトして払うことになった。
バイトはまぁ…施設の先輩のつてで、ホストの見習いのようなことをしてきた。
幸い俺は、高校生には見えないナリをしているし(そもそも本当の年齢が十七歳なのかもはっきりしない。何しろ身寄りがない俺は本当の生年月日もわからないからだ)、死んだ魚のようなと言われる目も、やろうと思えば煌めかせられる。
そこそこ器用なのが幸いして、ホストを始めてから約一年、週に何回か行っては、使い勝手のいいヘルプとして先輩には可愛がってもらっている。
バイトで夜遅くなることが多いから、俺は新学期が始まっても、毎日寝不足だった。
午後の授業、寝倒そうかな…と思っていた矢先、目の前に好みの女が現れて、俺の目は覚醒した。
(覚醒したといっても、当社比だから、人からみたら死んだ魚で変わらないらしいよ)
「姫川愛里」と名乗ったその女教師は、やや低めの甘い声で、生徒一人一人の名前を呼んでいく。
「坂田…銀八くん」
「ふぁーい」
俺は答えた。
新学期は俺の髪の毛に眉をひそめる教師が多いけれど、彼女は俺の顔を見て、にっこり笑っただけだった。
あー、地毛だって知ってるんだな、と思ってちょっとホッとした。
新学期になるたびに「地毛です」って言うことの繰り返し、さすがにうっとうしいよな。