第6章 真夏の夜の夢(銀八side)
軽く稽古をしたあと、顧問の教師のもとに入部届を出しに行った。
体育教師が顧問をしているのだと思っていたが、うちの学校では、学生時代に剣道をやっていた英語の教師が顧問をしているのだという。
俺は正直部活なんてものに興味がなかったから、そんなことすら知らなかった。
「坂田、お前本当に入部するのか」
「はい…」
信じがたい、という目で俺を見る。
去年習った英語の教師だが、俺はあまりこいつを好きではなかった。
メガネをかけたエリート顔の男が苦手なのだ。
「なんだ、夏の大会は辞退することになると思ってたのに」
部員たちが俺を歓迎してくれたのとは逆に、顧問の方は迷惑そうな顔だった。
「何なんだよ、あいつ!!あれでも本当に顧問なのかよ!!」
職員室を出るなり俺は毒づいた。
「まあまあ、坂田さん。僕らみたいな部の顧問をやってくれてるだけでありがたいんだ」
なだめるように、ギプスをしていない方の手で肩を叩かれる。
「……坂田さんって、やっぱり本当は熱い人なんだね」
「は?」
「いつも死んだ魚のような目でダルそうにしてるけど、僕は中学時代の親善試合の記憶があるからね。あの時夜兎側は反則スレスレの攻撃してた。ガラの悪い奴らばっかりいたから、文化祭の親善試合をぶっ潰すつもりだったんだよ。でも君はそれを全部受けて勝ったね。もう負けが決まってるのに、気持ちを切らしてなかった」
「……覚えてねえよ」
「乱闘騒ぎになった時も、君は冷静に仲間を止めてた」
「普段ケンカ慣れしてねえ奴が突っかかっても、夜兎中の奴らの思う壺だと思ったからだろ」
「あの後、僕らも大変だったけど、君たちも大変だったんじゃない?」
「……」
「入学式の時、その銀色の髪の毛ですぐわかったよ。でも剣道部に入ってこなかったから、もうやめちゃったんだとわかった。もしかして、夜兎中ともめたのが関係あるのかな、って本当は申し訳なく思ってたんだ」
「別にお前らのせいじゃねえよ。高校入ったら、もっと遊びたかったしな」
「そうだね、坂田さんは女の子を侍らせてるのも似合ってるよ。でも、力を貸してくれて、ありがとう」
「……」
「坂田さん目当てで、女子の剣道部員が増えたりしてくれたら嬉しいんだけど」
「俺が剣道部に入部するのは期間限定だぞ」
「うん、わかってるよ」
穏やかな笑顔で返された。