第6章 真夏の夜の夢(銀八side)
補習が終わってから、剣道部の部室に行ったら、部員全員が涙を流さんばかりに俺を歓迎したのには閉口した。俺、こういう暑苦しいの苦手なんだけど。
「坂田さん!ありがとう!!」
手をギプスで固めた男、どうやらこれが夜兎中出身の奴らしい。
「先輩、この坂田さんは中学時代、公式戦での記録こそ残っていませんけど、影で白夜叉って呼ばれてたんですよ」
あーーーー、その通り名は、剣道の腕の方を言ってるんじゃないかもしれないんだけど…。
俺は頭をかいた。
「白夜叉…。なるほど、その変わった髪の色に見合った通り名だな」
ごつい3年生がうなずく。
「だが、何で公式戦で勝てなかったんだ」
「いやあの…、もともと子供の頃から古武術を仕込まれてたんで、ついつい『突き』を出しちゃって……」
その「突き」で、しょっちゅうケンカ相手を半殺しにしてた、という話はしないでおいた。
「そうか、中学までは『突き』は反則だからな」
「でももう今は竹刀持たなくなって久しいですから、もうあの、コンパの人数合わせみたいな気持ちで来てますけど」
「いや、それでもありがたい。部員が集まらないのも、自分の不徳の致すところ。しかし、最後ぐらい団体戦に出て終わりにしたいと思っていたからな」
「最後?」
「先輩方3人が引退したら、部員は僕たち2人だけ。3人未満だと、『部』ではなく『同好会』になっちゃうんだよ。だから剣道部としては最後なんだ」
「……」
ああ、くそ。
だから、こういうのは苦手なんだって。辰馬のヤロー、どうしてこういう面倒くせェ感じに俺を巻き込むわけ?どうせならお前が剣道部に入ってやればいいじゃん!!
でもまあ正直、久しぶりに(しかも健全に)身体を動かすのは、悪い気分じゃなかった。
防具を貸してもらって竹刀を握ると、身体が自然と動く。
身体に叩き込んだ技は、抜けないものなんだな。