第5章 銀髪の少年(girl's side)
彼の顔を見上げる。
一度だけ触れたことのある、女性に飲まされた酒の匂いをさせている唇。
この唇で客の女性の耳に優しい言葉を囁いているのだろう。あるいは朝までその唇で女性を喜ばせてきたのだろう。
「坂田くんがホストしてるの、心配よ」
嘘をついた。
本当は心配なんかしてない。
単純に嫌なだけ。
私に耳触りのいい言葉を囁きながら、他の女性に媚びを売る彼が。
私のものでもなんでもない彼に、こんなことを言うのがお門違いなことはよくわかっている。
だけど、せめて卒業までの2年弱の間だけでも、私の生徒でいてほしい。私の相手をしてほしい。
だから、来年も私の授業を受けたいという彼にエサをまいた。
特進クラスに入ったら、と。
彼は乗ってきた。
思ったよりも乗ってきた。
「ヤらせてくれるだけで充分です」
即物的な彼の言葉。
ヤる?
私が?生徒の君と?
またそんなことを言って、今回と同じように私を落胆させるのだろう。
そんなことは明白だったけれど、一方で私は、彼の腕に抱かれ耳元で睦言を囁かれたら、どんな心地がするのだろう、と想像してしまった。
想像して、身体の中心が熱くなるのを感じた。
彼は真っ直ぐに私を見て言った。
「それを約束してもらえるなら、俺、ホストのバイトなんて、どうだっていいです」
そう。
言ったね?
わかってるかな、坂田くん。
私は、貴方の周りにいる顔も知らない女性たちに嫉妬している。
金を出せばその顔と声と身体を買える女性たちに、嫉妬している。