第5章 銀髪の少年(girl's side)
現代文の試験が終わり、試験監督の教師から渡された答案を繰っていく。
「さ…か…た…」
思わず彼の名前を口にしていた。
90点なんて獲れるわけない。
わかってるのに、一方ではあの時の彼の瞳が忘れられなくて、真っ先に彼の答案を探してしまっている。
自分の行動に思わず苦笑する。
しかし、探り当てた彼の答案の出来があまりに悪くて、目を見張った。
お遊びの契約、それはわかってる。
本気で彼が私と付き合いたいなんて思ってるはずがない。
だけど…、私と付き合う気なんてない、それを伝えたいからって、赤点までとらなくてもいいじゃない。
彼の答案を採点しながら、引き裂いてやろうかと思った。
そう、私は傷ついたのだ。
採点している途中、国語科準備室に彼が入って来たから、私は彼が傷口に塩を塗りに来たのかと思った。
そうではなかったけれど、別の意味でとても驚かされた。
高校生の彼の身体から、お酒の匂いが強くしたからだ。
ホストをしているという噂が、噂だけで済みそうもないくらい。
まさか、朝まで仕事をして、そのまま学校に来たのだろうか。
あるいは、朝まで女性と一緒にいて…。
噂の真偽を問い詰めると、彼は素直に認めた。
私はため息をつく。
90点獲ったら付き合って、なんていいながら。
ホストのバイト明けで酒の匂いをさせながら登校して。
で、赤点とって謝罪に来ている。
そしてホストであることを素直に認める。
教師の立場からしたら、支離滅裂に見える行動。
こんな行動をとれるのも、彼にとって、この学校に通っていることに大して意味がないからだろう。
それはそうだ。ホストに向いていそうだもの。
学校で勉強をするより、ずっとずっと大きなものが得られるだろう。
それがわかるから、教師として言えるのは、
「退学なんかならないで」
くらいだ。
「坂田くんが退学しちゃったら、私すごく悲しい」
これは本音だ。
彼が退学をしてしまったら、彼と私の人生は二度と交差することはないだろう。
私の生徒でいることも、彼の生活のちょっとしたスパイスにすぎないのだろう。
そう思うと、胸が痛い。
私の中で、彼の存在が大きくなっていることに気づく。