第5章 銀髪の少年(girl's side)
「今年の生徒はどう?」
横たわったまま聞かれた。
ベッドでぬくもりを感じるのは好きだけど、仕事の話をするのは好きじゃない。
「悪くないよ」
素っ気なく言う。
「前のようにストーカーが出ることはない?」
あれは貴方がちゃんと対処してくれなかったからでしょ、という言葉を飲み込み、私は「たぶんね」とだけ答えた。
「あの目立つ髪の生徒も結構なついているみたいじゃない」
へえ、見てたんだ。
「うん、本が好きみたい」
「去年は、教室でジャンプしか読んでなかったけどな」
「川端康成の本を貸したら、読んできたよ」
「マジか。俺も川端読んだことなんてないな。『北国』だっけ?」
「『雪国』。…ノーベル賞作品ぐらい、教師なら知っててよ」
屋上でサボっている彼に出くわしたとき、キスされるとは思ってもみなかった。
ホストをしているのだとすれば、お金にならない女になんか興味ないだろうに。
それとも教師をからかって楽しむ趣味があるのだろうか。
そしてそのキスの巧さに、何人の女性を相手にしてきたのだろうという疑問がわく。
年上の女性に仕込まれているのかもしれない、とも思う。
しかしそれ以上に、ここが学校で、授業中だ、ということすら忘れてしまうほどの快感が私を襲った。
だめだ。
相手は生徒なのに。
もうこれ以上ややこしい人間関係なんて、うんざりなのに。
「愛里先生」
だけど、大人びた声でこんな風に呼ばれたら、女性としてときめかない人間がいるだろうか。
「期末テストで俺が90点獲ったら、俺と付き合ってくれますか?俺今彼女いないんで」
いちご大福をごちそうになりながら、よくわからない契約の提案をされた。
教師と生徒が付き合えるわけないじゃないの。
それに私に彼氏がいないの前提ですか。
「先生に彼氏いても別にいいっす」
そう言われてギクッ、とした。
もしかして知っている?そんなはずはない。だけど…。
「…そいつより俺のこと好きにさせるから」
真っ正面から真剣を装った瞳で見つめられる。
こうやってホストはお客を口説くのね。
お遊びも、たまにはいいのかもしれない。
「…わかった。90点獲ったら、坂田くんと付き合ってあげる」
まさか90点なんて獲れるわけない。
獲れるわけないけど、ちょっとの間だけ、楽しませてもらおうじゃないの。