第22章 見えなく、して
「お姉さん、こんばんは」
「ひゃっ」
「ホストクラブ高天原の万年指名なしホストのギンです。お姉さん、一人?」
「……銀八くん?」
先生は俺を見て、呆然としているようだった。
そりゃそうだよな、街中で、生徒に声をかけられたんだからな。
しかも、ホテル街から男と出てきた直後に。
「だから、今は指名なしホストのギンですって。学校には内緒ね」
俺はビジネススマイルで笑いかけた。
酔っ払っている先生を見るのは初めてだ。
目元がうっすら赤くなって、ちょっとエロい。
酔っているからなのか、単純に俺が現れたことに驚いているのか、黙っている先生を尻目に、俺は身体をほとんど抱きしめるように近づいた。
「さっきの男、お姉さんの大事な人?」
「え!?」
「さっき、男と二人で歩いてたでしょ?彼氏?大事な人?」
「そ、そういうのじゃないのよ。昔からの男友達」
近づけばわかる酒のにおい。
結構飲まされているのかもしれない。
でも酒のにおいだけではなく。
「昔からの、セックスフレンド、の間違いでしょ」
「……そうじゃないわ」
ふうん、それ、生徒の目をまっすぐ見て言えるわけないよね、先生のうそつき。
俺は耳元に囁く。
「タバコと男物の香水の匂いさせながらそんなこと言われても、誰も信じないよ?」
「嘘!私、ちゃんとシャワー浴びて……」
そこまで言って、先生は自分の過ちに気づいたようだった。
ほのかに鼻をかすめるのは、タバコじゃなくて、男物の香水でもなくて、シャンプーの香り。
深夜にどうしてシャンプーの香りさせて歩いてるの?
語るに落ちるとは、まさにこのことだよね、先生。
国語の先生が、自分で例を見せてくれたってわけだね。
俺の中の鬼が、ぞわり、と動いた。
「へえ、どこのホテルでシャワー浴びたの?」
「あ……ちがうの……」
先生の腕をつかみ、引っ張っていく。
「銀八くん!」
「俺がもっとちゃーんと、綺麗に落としてやるよ」