第22章 見えなく、して
「ゴミ捨てしたら、上がっていいぞ」
「わかりました」
「手伝ってくれてありがとな」
裏口から出て、巨大なバケツごとゴミを出す。
すっかり冬なのに汗かくほどだ。
汗をぬぐう。
路地の先、気の早いクリスマスのイルミネーションで照らされた通りは明るく、行き交う男女の顔まで、見たくもないのによく見える、土曜日の夜。
ちぇ。
楽しそうに歩きやがって。
不景気不景気って言ってるけど、こりゃ、右手のホテル街も繁盛だね。
だけど。
ぼんやり見ていた俺の目にとんでもないものが飛び込んできた。
見間違い?
そんなはずはない。
いつもいつも、見たいと思っている人。
ずっとずっと、見ていたいと思っている人。
愛里先生が。
先生が、男と二人で、ホテル街から歩いてきた。
俺はそのまま通りに飛び出した。
後をつけてどうしようっていうのか。
そんなことも考えられないほど、俺の頭は冷静さを欠いていた。
後ろ姿ですぐわかる。
学校にもときどき着てくるコートで。
少し酔っているのかもしれない。
男と並んで、イルミネーションの下を歩いている。
あの男がいなくなったと思ったら。
また次の男が現れる。
何人の男を追い払えば、俺のものになるんだろう。
いや……、永遠に俺のものになんか、ならないのかもしれない。
この男こそが、先生の大事な人なんだろうか。
恋心を置いていったという、その大事な……。
だが、大通りまで出てきた二人は、別の方向に別れた。
男はタクシーに乗り、先生は少しふらふらしながら、夜道を歩いて行く。
あれ、あの男、先生を送っていかねえの?
俺は戸惑いながらも、チャンスとばかりに先生に駆け寄り、その細い腕をつかんだ。