第21章 色のない世界(girl's side)
「#NMAE2#、好きな男でもできた?」
「え?」
好きな男。
そう言われて一瞬、銀色の髪が脳裏をよぎった。
「そんな素敵な展開があったらいいんだけど」
ごまかすのは巧くいったと思う。
「そう……何か、好きな男でもできたから、俺に抱かれるの嫌になったのかなって」
「……」
「まだ、あいつ以上の男はいないってこと?」
「……」
「そうか……それなら……」
男は何かを言いかけ、
「いや、まあ、いいや」
途中でやめた。
「何でもないよ」
「……」
私は学生時代から見馴れた彼の横顔を眺める。
お互いに干渉しない、居心地のいい関係を続けてきたこの男の顔を。
「そう……」
「今日は姫川疲れてるみたいだから、帰るよ。金は払っておくから、姫川は朝まで寝ててもいいよ」
「ううん……私も帰る。まだ終電あるし」
「タクシー呼ぼうか?」
「ううん、酔い覚ましに歩きたいの」
「大丈夫?送ろうか?」
「大丈夫よ」
ごめんね。
私は隣を歩く男に心の中で謝った。
今までずっと、つかず離れず、友達として、そしてときには身体をつなげて過ごしてきたのに。
幾たび私は慰められてきたのだろう。
何も考えず、快感に溺れることで。
なのに今日は、いや、今は、ほかの男に抱かれることを、身体が拒んでいる。
触れてほしい人が、他にできてしまったから。
(銀八くんに、逢いたいなあ)
男と別れ、雑踏の中を歩きながら、ぼんやり考えた。
学校に行けば顔を合わせることはできるけれど。
教師と生徒してじゃなくて。
男と女として。
一緒にパフェを食べて、おしゃべりして、身体で愛し合って、抱きしめられながら、寝る。
そんな風に過ごせたら、どんなにいいだろう。
この夜をどうやって過ごしているの?
他の女を腕に抱いているの?
(銀八くん……)