第21章 色のない世界(girl's side)
「あ、痕がついちゃ……」
「え?服に隠れるでしょ?」
「そうじゃなくて」
「あ、他の男に見られたらまずいってこと?それなら逆効果だから」
「んっ、やあっ」
「英文科だったイトウも今の職場にいるっていったよね?あの男とまだ続いてるの?」
「いや……もう……終わってるわ」
「そっかー、それは残念。姫川の身体にキスマークつけられて怒り狂うイトウ見てみたかったかも」
「そんな……」
そんな風に会話をしながら愛撫されているのに、身体が快感を拾わない。
あの子の抱き方は、こんなふうじゃなかった。
左胸に這わされる舌も、下肢をすべっていく指も、そして耳を犯す囁きも。
もっといやらしくて、それでいて愛されているのではないかと勘違いしてしまうほどの。
「……なあ姫川、やっぱり今日疲れてる?」
手が止まった。
私をのぞきこむ男の瞳。
怒っているのではなく、寂しそうな瞳。
私はなんと言っていいのかわからなくて、
「……ごめんなさい……」
と小さく答えた。
男は、
「謝ることないよ、俺が誘ったんだし」
と言い、私の横に横たわった。
「イトウって、あいつにちょっと似てるよね」
「……そうかな」
「え?だから関係持ったんじゃないの?俺、そう思ってた」
「……」
「でも、姫川に一途だったあいつとは大違いで、イトウの方は学生の頃から、かなりヤリまくってるタイプだったよね。結婚したくせに、姫川にまで手を出すなんてさあ、欲張り過ぎだっつうの」
「……」