第20章 恋心捜索願(銀八 side)
それを知った日の放課後、国語科資料室に向かった。
先生は疲れているのか(当たり前だ)、けだるげな視線を俺に向けた。
「愛里先生、ありがとうございました」
「え?」
「俺のことを信じてくれて。俺がシノハラの相手じゃないって最初から言ってくれてたと聞きました」
「……」
「俺の方は、先生の大事な人をやめさせてしまったというのに」
「え?」
「……ごめんなさい」
口ではそう言ったけれど、本当はあまり謝罪の気持ちを持っていたわけではない。
何しろ、結果的に愛里先生の前から、あの男を消し去ることができたのだから。
これで俺の入り込む余地ができたかもしれない。
むしろ喜んでいるくらいだった。
ただ、先生の心を傷つけてしまったことに対して、言い訳代わりに謝っているようなものなのだ。
そんな俺の心を知ってか知らずか、愛里先生は不思議そうな顔で俺を見た。
「銀八くん、……君、誤解してるわ」
「え?」
「確かにあのひとと関係は持っていたけど……でも、大事な人なんてほど、深いものじゃないの」
「でも……」
「これは自分の身がかわいいから言ってるんじゃないわ。もし君が全てを公表すれば私はここに居られなくなるのだから、君にこんなことで嘘をついたって仕方ないでしょ。あのひととはもう終わってたの。だから、君がそんな風に気に病むことはないわ」
先生はさらっと重い事実を口にする。
確かにそうだ。
先生がここの教師でいられるかは、俺の言動にかかっているのだ。
そう思うと、ドS心をくすぐられて、少し嬉しかった。
ただ、俺が先生とのことを口にすることはないだろう。
俺は教師である愛里先生が好きだからだ。
たとえ、先生の心が他の男で占められているとしても。