第20章 恋心捜索願(銀八 side)
しばらくして、とっつぁんが戻ってきた。
「殴ったりして、悪かったな」
「……」
とっつぁんが、生徒に謝罪するなんて。
俺は目の前に起こった出来事を、信じられない思いで眺めた。
「濡れ衣だったんだな」
「……」
「いや、俺が早とちりしたのが悪かったな。お前はシノハラのために妊娠検査薬を買ってやっただけなのに」
「……はい」
「メシ食ったら、午後からは授業に戻ってもいいぞ」
「へ?」
「それから、シノハラのつきあっていた相手のことだが……」
「はい?」
「あまり広めないでやってほしい」
「はあ」
「人の口に戸は立てられねえが、傷つく人もいるかもしれねえ」
「……」
その言葉に、全て公になってしまったのだ、と悟った。
俺はわかりました、と小さく答えた。
だがそのときの俺は、まだ知らなかった。
職員室にいた月詠が、シノハラの相手の名を口にしたこと。
その頃、病院にかけつけたあの教師とシノハラが揉めて大騒動になっていたこと。
シノハラの親が病院から学校に電話をしてきたこと。
職員室は上を下への大騒ぎだった、と後で月詠が俺に話してくれた。
そんなことも知らず、俺は反省文を書かされただけで、午後の授業に戻った。
俺が入るなり教室ではひそひそ話が始まり、居心地の悪い思いはしたが、気にしないことにした。
俺は悪くない。
俺がシノハラ孕ませたわけでもない。
何なら証拠だってあるんだっつうの!
だが結局、俺へのひそひそ話はすぐやんだ。
人の口に戸は立てられない。
まさにそうで。
シノハラとあの教師がデキているのではないか、という噂は、既にシノハラのクラスではまことしやかに語られていたということもあり、俺に白い目が向けられることはなくなっていった。
ただしその結果、シノハラも、あの教師も、学校をやめるハメになってしまったのだが――。