第19章 銀色の鎖(girl's side)
ややあって彼が口を開いた。
「先生、先生、俺……」
「どうしたの?」
「……誰にも言ってないんですけど、シノハラの相手知ってるんです」
「……」
「偶然、なんですけど、証拠もあるんです」
「……」
「いずれわかることかもしれませんが、先生にだけ、教えておいていいですか……」
「……」
その段階で、私にはわかってしまった。
薄々気づいていたことを、彼に裏付けられたという感じだった。
「……先生、シノハラは、イトウ先生とつきあってます。イトウ先生の子どもを妊娠したかもしれないって、屋上で相談受けてたんです」
だからこそ私は、かなり冷静にその発言を受け止められたと思う。
つい数ヶ月前までぬくもりを共有していた男が、別の女、それも女子生徒を妊娠させていたかもしれない、ということを知っても、私は動じなかった。
いやむしろ、安堵したのだ。
彼が、あの生徒と関係を持っていたのではないと確信が持てて。
私は笑みさえ浮かべていたかもしれない。
「それで、彼女の代わりに、妊娠検査薬買ってあげたの?」
「そうです……」
私は大きく息を吐き、彼は私の顔を片方の目でじっと見つめた。
「どうして、見つかっちゃったのよ」
「ツメが甘いんですよね、俺」
「……」
「すみません」
「……何に対して謝ってるの?」
「……よくわかりません。ただ……先生の眉間に、そんなふうに皺を入れさせていることは、申し訳なく思っています」
「……」
そうか、私の眉間には、皺が入っているのか。