第19章 銀色の鎖(girl's side)
面談室から彼の担任が声をかけてきた。
「すみません、坂田の顔にあざができてしまって。保健の先生の代わりに、どなたか氷を持ってきてくださいませんか」
保健室から氷嚢を持って面談室に入ると、目の周りの青あざが痛々しい彼が私を見上げた。
思わず学年主任が手を出してしまったのだという。
担任は言った。
「すみません、姫川先生。授業があるので、こいつ見ててもらっていいですか」
私たちは二人、面談室に残された。
「痛かったわね」
「……」
氷嚢を渡すと、彼はそれを黙って左目に当てた。
「松平のとっつぁんの一発、カウンターで入ったんですよね」
「そう……。松平先生の娘さん、君たちと同年代みたいだから、父親の気持ちになっちゃったのね」
「まあ、だからって、とっつぁんを体罰で訴えるとかしたいわけじゃないですけど」
「そう?」
「俺は……、愛里先生が俺のこと信じてくれたら、それでいいんで」
「……」
「先生、……先生も、俺がシノハラ妊娠させたって思ってます?」
「思ってないわよ」
そう言うと、彼は右目を大きく見張り、安堵したように息を吐いた。
「良かった……」
「だって」
私は部屋の外に聞こえないように、小さな声で言った。
「銀八くんが言ったんじゃない。避妊せずに女を抱いたことないって」
彼は、ふよよ、という感じで唇をふるわせた。
こうやっていると、年相応の、可愛い高校生に見える。
「そう……そうなんです……信じてください……」
「信じてるわよ」
そう答えると、彼はまた大きく息を一つ吐いた。
彼のことだ、きっと今まで教師に信用されてこなかったのだろう。
私だって彼を心から信じているかといえば嘘になる。
信じたいと思っているだけ。