第4章 再契約(銀八side)
「坂田くんが退学しちゃったら、私すごく悲しい」
「え?」
あ、いや、わかってるよ。愛里先生がしたのは、教師としての発言だってことはね。だけど、教師なんて職業の人に好かれたことのない俺には、とんでもなくズシンとくる言葉だった。
そうだ、学校やめたら、愛里先生に会えなくなる。
寂しい。
想像しただけで寂しい。
来る者拒まず去る者追わずで生きてきたはずの俺だけど、愛里先生に会えなくなったら、俺の生活はずいぶん色あせたものになるだろうと思えた。
一見華やかなホストクラブにも、俺の生活を彩ってくれる煌めきはないのだから。
先生は俺の顔をのぞきこむようにしてさらに言った。
「ねえ、坂田くん。ホストのバイト、やめられないの?」
「…」
「こんなんじゃ、いつ他の先生にばれるかわからないよ?ホストはお給料がいいのだろうけど、他のバイトにするわけにはいかないの?」
「…」
「もしかして、修学旅行にみんなで行きたいとか、そういうことでお金貯めてるの?」
「いや、そうじゃないんですけど」
「坂田くんがホストしてるの、心配よ」
また、ズシン、ときた。
人から心配なんてこと、されなくなって久しい。
これも、教師としての心配だということはわかる。
だけど、もし、先生が俺の彼女かなんかで「ホストなんかしないで!他の女に媚び売らないで!」って言ったら、俺は喜んでホストやめるんじゃないだろうか。
先生の表情を見て、俺はそう思った。
「…すいません」
自分でも驚くほど弱々しい声だった。
「ねえ、坂田くん。来年の話をするのは気が早いけど、私、来年はたぶん特進クラスを担当するの。そもそも今年も産休の先生の代理で君たちのクラスを担当しているのよ。本当に私に習いたいなら、特進クラスに入らないと」
特進、クラス?
俺が?
「愛里先生、それはうちの野球部に、甲子園で優勝しろと言っているようなものです」
「あ、やっとまともなこと言ったね。試験の解答よりまともな日本語しゃべってる」
先生がそう言って笑った。
ああ、やっぱり先生の笑顔が好きだ。