第18章 踏んだり蹴ったり殴られたり(銀八 side)
で、次の日。
昼休みにシノハラと月詠が俺たちの教室に乗り込んできた。
「銀ちゃん!」
「銀八!」
目の据わった女たちに左右から見つめられると、つい反射で「すいません」と言いたくなってしまう。
イヤイヤイヤ、俺、何も悪いことしてないってば!
「シ、シノハラさあん?月詠ちゃあん?ど、どうしたの?」
飲みさしのいちご牛乳を手に俺は聞いた。
「ちょっと来て!」
ほとんど拉致される勢いで俺は屋上に連れて行かれた。
「ねえ、銀ちゃんにお願いがあるの」
えーと。
何か、嫌な予感しかしないんだけど。
「あのね……」
「……」
あんなことやこんなことに、俺の名前を貸せとか言われそうで、俺の喉は緊張でごくり、と鳴った。
「あのね……、妊娠検査薬買ってきてほしいの」
「……へ?」
思っていたのとは違った言葉に、正直拍子抜けした。
「私たち2人でドラッグストアに行ってみたんだけど……やっぱり恥ずかしくて、手に取ることもできなかったの」
「……」
月詠は顔を赤くしたまま黙っている。
まあ、どんな感じだったかは想像がつくけど。
「いや、俺も妊娠検査薬なんて買った経験ないんですけど……」
戸惑う俺の声は強い口調にかき消された。
「銀ちゃんなら、買いに行けるんじゃないかって思って!」
え、何これ、この無駄な信頼感!
正直すげえ迷惑でしかないんですけど!!
でもまあ、思い詰めた顔の女子生徒二人に見つめられて、俺もほだされた。
「しょうがねえなあ」
俺がそう言うと、二人ともほっとした表情を見せる。
まあ、妊娠しているかもしれないなんていうプレッシャーに押しつぶされそうになっている彼女の心を考えたら、そのくらいしてやってもいいかな、という気になりはする。
それは、屋上で、あの教師との関係を、散々煽っていた後ろめたさだったかもしれない。
それも全て、あの教師と愛里先生を引き離すための間接的な手段だったに過ぎないんだけど。
しかしそのときの俺は、この安請け合いがとんでもないことを引き起こすだなんて、思ってもみなかった。