第17章 人の不幸は蜜の味(銀八side)
そう。
そうだよね。
俺は先生の弱味を握って身体を奪ったけれど、それも先生の中では「生徒がやったやんちゃな行為」の一つに過ぎないわけだ。
先生の授業で内職して別の教科の課題をやっていたとか、先生の授業に遅刻してくるとか、そういうことと同レベルってわけだ。
だから、先生は決して俺に心を向けてはくれないんだろ。
俺は唇をかんだ。
俺には、先生の心を本当に傷つけることなんてできない。
先生は、俺の心をこうやって簡単に切り裂いてくれるけど。
「わかりました」
「銀八くん?」
「その言葉をもらえたので、安心しました。先生、俺のこと、許してね」
「銀八くん!?まさか、学校やめるとか、そういう……」
「ああ、そういうことじゃないですよ。だって俺、来年も先生に習っていたいから」
俺は先生を置き去りにして、教室に戻った。
チャイムはとっくに鳴ってしまっていた。
本当は愛里先生と屋上で授業をサボッていたい。
でも、今先生と一緒にいるのは辛すぎる。
先生にとって、俺はちょっと特別な「生徒」でしかないことなんてわかっていたつもりだったのに。
面と向かって告げられることが、こんなに辛いことだなんて。
結局俺にできるのは、卑怯な手を使うことだけ。
ああ、ごめんな、シノハラさん。
俺はアンタのことをダシにして、自分の好きな人を手に入れるという希望を捨てられない。