第17章 人の不幸は蜜の味(銀八side)
俺の沈黙をどういう意味にとったのだろう。
先生は再び口を開いた。
「こういう言い方をすると、まるで貴方を非難しているみたいだけど。そうじゃないのよ。私、銀八くんが女性を大事にする人だってこと、わかってるわ」
「……」
そんなことない。
俺は卑怯な手を使って先生を抱いた。
俺の気持ちを一方的に押しつけた。
先生がそれを受け止めてくれるのをいいことに。
「ちゃんと避妊だってしようとしてくれたじゃない」
「そんなの当たり前です!」
先生はふっと笑った。
「そう思わない男もいるわ」
そう。
俺も知ってるよ。
今さっき、聞いたとこだ。
先生はどこまで知っているんだろう。
自分の不倫相手が、自分だけでなく、他の女にも手を出しているということ。
その相手の中には、俺と同じような高校生もいるということ。
そしてその高校生が、妊娠しているかもしれないこと……。
それを今告げたらどうなるだろうか。
全て先生の前で証拠までしっかり聞かせてあげたらどうなるだろうか。
先生は、俺のことを憎むだろうか。
それとも……。
俺の弱さが、口を開かせた。
「先生、先生は俺のこと……許してくれたりなんかしないですよね」
先生は俺の顔を不思議そうに見た。
「何を……言ってるの?」
「俺は先生を傷つけたいと思っているわけじゃないんですけど……」
あとのことは、言葉にならなかった。
「……」
そんな俺の様子を無言で眺めていた先生が口を開いた。
「確かに、君たち生徒は、結構平気で教師を傷つけてくれるわね。でも、だからといって、君たちを憎むなんてことはないわ。だって……、やっぱり君たちは生徒なんだもの。どんなことを君たちがしても、どこかで『生徒のすることなんだから』って思っている自分がいる。私は、君たちが生徒であるというだけで、全てを許しているのね」