第17章 人の不幸は蜜の味(銀八side)
驚いたのは、屋上に向かう階段を降りきったところに、愛里先生がいたことだ。
このタイミングでの登場には、かなり心臓がびゅくんと動いた。
「先生、これから屋上でお昼ですか」
「そう」
シノハラと月詠が階段を降りて来て、反対側の廊下を歩いて行った後、愛里先生は俺の顔を見て、ニヤリと笑った。
「モテるのね」
何言ってるんだろう、この人。
あの女子生徒が好きなのは、あんたの大事な男なんだぜ。
「シノハラさんが好きなのは俺なんかじゃないですよ」
「え?……ああ、そういう意味じゃないわよ」
じゃあどういう意味なんだ?
「銀八くんって、意外に鈍感なのね」
からかわれているような気がして、腹が立った。
鈍感なのは、愛里先生の方だろ。
アンタの大事な男に恋焦がれている女のお守りをしてやってるだけだっつうの。
あんたら教師のおかげで、俺の金にもならない仕事が増えてるんだっつうの。
俺は頭をかきむしった。
「俺は、うちの高校の生徒になんて手を出しません!」
そう言ってから、小さな声で付け加えた。
「愛里先生は……生徒じゃないし……」
先生はしばらく黙っていたが、
「そうね。後腐れのなさそうな女じゃないと手を出さないってことでしょ」
と言った。
「……」
それは半分当たっていて、半分間違っている。
先生が後腐れなく男と寝るタイプの女性であることは、わかっているつもりだ。
だからこそ俺とも身体を重ねてくれているんだろう。
だけど俺の方は、こんなに未練タラタラだ。
先生のことが好きで好きで、身体だけでなく心も俺のものにしたい。
完全に後腐れが……ある。