第17章 人の不幸は蜜の味(銀八side)
「でも、今の俺だったら、『抱いて』と言われても、できるだけそうしない方向にもってくな」
「……?」
「こうみても俺、絶賛片思い中だから」
月詠が目を大きく見開いた。
そりゃそうだよな。
俺に片思いとか、マジ似合わねえ。
あ、プラトニックな片思いじゃないけどな。
「お前に片思いしている女が『抱いて』と迫ってきたらどうする?」
「それなら尚更手は出せねえな。身体だけ提供してもさ、心はあげられないから、相手を傷つけるばかりだろ。俺、俺のことを好きな女の気持ちをふみにじって、ヤらせるだけヤらせて、ポイッとかしねえよ。正直、後腐れなくヤれる女にはそんなに困ってこなかったしな」
「お前、まともなのかまともじゃないのか、よくわからんな」
「そうか?」
「お前の好きな人っていうのは、お前のことを振り向いてくれなさそうなのか」
「はは。今のところな」
「そうか。その人が『抱いて』って言ったら、どうする?」
すげえ攻め込んでくるなあ、さすが将来有望選手だぜ。
「ああ……情けねえけど、そういう時には応えてあげちゃうからさ、俺も悩みが深いわけ」
「……」
「身体だけ手に入れても、心は手に入らないんだけどさ。どこかで、身体を手に入れれば、心も手に入るんじゃないかって、期待しちまうんだよな」
「……お前、女の気持ちがよくわかってないな。女は、全く好きじゃない奴に身体を開いたりしないぞ」
「はは。そんなこと言われたら期待しちまうじゃねえか。……でもよ、大人の女になると、そうとは限らねえんだよ」
月詠は黙った。
お前の片思いの相手は大人の女なのか、とその表情が語っていた気がする。
まずかったかな。
でもまあ、その相手が愛里先生だとバレたりすることはないだろう。