第17章 人の不幸は蜜の味(銀八side)
そんな屋上でのやりとり。
シノハラという女子生徒はキラキラした顔で、自分とあの教師がいかにラブラブなのかをしゃべっている。
俺以外の誰にも言えない、秘密の恋。
正直俺は、嫌いな男の話なんてどうでもいいけれど、この目の前の女子生徒とあの教師がそんなにラブラブしているのならば、愛里先生が入り込む隙間がなくなるんじゃないか、なんて淡い期待を寄せつつあった。
だからむしろ、彼女とあの教師を応援するような発言を繰りかえしていた。
嬉しそうに話している彼女に少し心を痛めながら。
自分の卑怯さにはほとほと愛想がつくな。
いつも俺を呼びに来るのは怖い目をした月詠だった。
シノハラさーーん?ちゃんと誤解を解いてくれてるんだよねェェェェ?と疑いたくなるような。
ただ、何回目かに呼び出された時だった。
屋上に向かいながら、月詠はぽつんとつぶやいた。
「……銀八、お前なんでユカリの話につきあってやってるんだ?」
うまく答えられなかった。
同じような経験をしている者同士の(彼女はそれを知らないにしても)傷のなめ合い、という面もある。
一方で、保健室で彼女を泣かせてしまった後ろめたさ、それもある。
そしてなにより、彼女があの教師とうまくいっていれば、愛里先生が俺のものになる確率も上がるんじゃないか、という期待……。
様々入り交じった複雑な感情が俺の口を重くさせる。
「いや……」
「いや、何だよ」
「いや……なんか、シノハラが俺のこと必要としているみたいだから」
曖昧なことしか言えなかった。