第17章 人の不幸は蜜の味(銀八side)
そんな風な屋上でのシノハラという女子生徒との会話は、週に1回ぐらいの頻度で、しばらく続いた。
「誰にも言えないことしてると苦しくて、話を聞いてもらいたくなったの」
確かに、秘密を共有する人間がいるという安堵感というものはきっとあるだろう。
あるいは、俺の秘密を無意識のうちに嗅ぎ取って、同類の安堵感をそれとなく感じ取っているのかもしれない。
もちろん俺自身は何も言うつもりないけれど。
メシを食いながら話をする。
「私ね、入学した頃からイトウ先生のこと好きだったから、『お前が生徒じゃなかったら良かったのに』なんて言われて、有頂天になってたんだと思う」
ああ、そうだろうな。
そんなこと言われたらきっと有頂天になるだろう。
残念ながら、俺はそんな台詞、先生から言われた一度もないけど。
言われてみてー。
「でも、Hしたその時は嬉しかったのに、今は苦しいことばかりあるの。でもそれでもしちゃうんだけど」
穏やかな小春日和の屋上で、彼女の瞳だけが暗かった。
「そうなんだよな。プラトニックに片思いしていた頃の方が、独り相撲だから楽だよな」
「そういう歌、百人一首にあったよね」
「逢ひ見ての後の心にくらぶれば昔は物を思はざりけり」
思わず口ずさんでしまった。
「えっ、すごい、銀ちゃん何で覚えてるの?」
「この前、古典で出てきたから」
愛里先生に教えてもらったのだ、ということは何となくごまかして。
「銀ちゃんって古典できるんだ。意外―」
「こう見えても、中間テストで90点超えしたし」
「ええっ?そうなの」
まあ、誰でも驚くよな。
愛里先生の気を引きたいだけなんだけど。