第17章 人の不幸は蜜の味(銀八side)
俺は何も知らない目の前の女子生徒を眺めた。
この生徒には悪いけど、このネタを使ってあの教師を窮地に追いやる方がいいのか。
この生徒をかばい、黙って今の関係を続けた方がいいのか。
そんな葛藤を抱え、それでいてホストで培ったビジネススマイルは顔にはりつけたまま。
「あの月詠ってコ、俺のことすごくにらみつけてて、すげぇ怖かったんだけど。俺、あいつに怒られるようなことした覚えないんだけど」
「もしかして私が思い悩んでいる原因を、銀ちゃんだと誤解してるのかもしれないの」
「おいおい。そのあたりの誤解はちゃんと解いておいてくれよ。じゃないと俺、殺されそうな気がする」
「そんな」
「いや、ハンドボールだってね?あいつの球、当たり所悪かったら死ぬと思うんだよな」
「まさか!でもまあ、銀ちゃんのせいじゃないってことは言っておくね」
「頼むぜ。ほんと殺されそうな勢い。……なあ、どうして悩んでるのか、友達にも言えないわけか」
「うん。だって、そしたら、月詠も悩んじゃうと思うし、彼女は正義感強いから、先生に談判しに言ったりして、大騒ぎになりそうだから」
うん確かに、真面目で一本気な月詠のことだから、十分ありそうな話だ。
だが、俺は言葉を継ぐ。
「でも、俺には話せて、あいつには話せない話があるってことで、あいつが傷つくこともあるんじゃないか」
俺の言葉に彼女は目を見張る。
そういうことは考えもしなかったらしい。
もうちょっと女の友情大事にした方がいいんじゃね?
それとも女の友情なんて、そんなモンなのか。