第17章 人の不幸は蜜の味(銀八side)
屋上にいたのは、この前保健室で情事に遭遇してしまった、あのシノハラという女子生徒だった。
下の名前ユカリっていうのか、とそのとき気づいた。
「呼び出したりして、ごめんね。銀ちゃん、本当に黙っててくれてるんだね」
そんなこと言われても、苦笑いで返すほかない。
アンタへの思いやりというよりは、どうやれば、あの教師と愛里先生をうまく別れさせられるかの算段をするのに時間がかかってるだけだ。
いや、本当は違う。
俺は怖かった。
愛里先生にこのことを告げて、不安定なまま安定している先生と俺の関係が壊れるのが怖かった。
俺があの教師と愛里先生の弱みを握っているからこそ、先生は俺に身体を開いてくれるのであって。
あの教師と愛里先生が別れてしまえば、先生が俺に抱かれる理由はなくなる。
そうなったとき、先生の心が俺に向いてくれるとは限らない。
むしろ、これ幸いと俺のことを拒絶するかもしれない。
もちろん、そうなったときは生徒に手を出したことをネタに関係を強制することができるとも思う。
俺のことを憎みながらも抱かれる先生を想像すると、グッとくる。
たった2回でも身体を重ねれば、先生の身体のどこが感じやすいかなんて、覚えてしまう。
俺って、結構優秀な生徒じゃね?
憎悪と快楽に引き裂かれ、俺の身体の下で絶頂に達する先生……あー、ドSにはたまんねえ。
だけど俺は、そんなドSのゲス野郎になりきることもできない。
本当の本当の俺の気持ちは、先生に愛されたいから。
先生に俺だけを愛してほしいから。
そんなことをぐるぐる考えて、この女とあの教師の情事のネタをまだ寝かせたままにしているだけだ。