第17章 人の不幸は蜜の味(銀八side)
「私も知ってるんだ。先生と関係を持ってる人、ほかにもいるみたいなんだよね」
「……」
おいおいおい、あの教師、複数の生徒に手を出してるのかよ。
それとも、愛里先生のこともカウントされているのか。
さすがに口元が引きつるよ。
「アンタもさあ、本気でイトウ先生が好きとか言うんならさあ、イトウ先生のうちの乗り込んでいって、奥さんの目の前に証拠でも突きつけて、『あなたのだんなさんは私とデキてます。別れてください』とでも何とでも言えば?」
「……!」
「そしたらさすがに、ほかの女には勝てるんじゃねえ?」
そう、これも愛里先生に言いたかったんだ。ほんとは。
でもきっと彼女も愛里先生も、そんなことはしない。
あの教師が離婚して自分を選ぶなんてこと、ありえないのがわかってるからだ。
それを突きつける俺。
今の俺の顔、すげえゆがんでるだろうな。
「そのくらいの覚悟がある、っていうんなら、俺もアンタの『本気』認めるよ」
「……」
つう、と涙が彼女の頬を伝った。
ああ、ごめんね、アンタを泣かせたいわけじゃないんだよ。
つい――、愛里先生に言いたかったことを、アンタに言ってしまってるだけだ。
俺は頭をかいた。
「まあ、俺だって真っ当な男子高生やってるわけじゃないしな。他人に言いふらすつもりはねえよ」
「ほんと!」
「でもよ、俺が言うことじゃねえけど、アンタもさ……、もっと自分を大事にしてくれる男探した方がいいんじゃねえの?」
最後は、目の前の女を通して、ほとんど愛里先生に言っているようなものだった。
「そうね……」
彼女の目の端から涙がこぼれ落ちた。
「私も、そう思う……」
逃げるように去った彼女を目で追い、俺は一人保健室に残された。
あーあ。
女を泣かせちゃったな。
でも、これで。
先生の心から、あの教師を追い出せる。
あのちっちゃい輪っかごと、先生の心から、あの教師を葬り去ってしまえる。