第17章 人の不幸は蜜の味(銀八side)
ああ、そうそう。
こういう顔、愛里先生もしてたよな。
この生徒の場合は、愛里先生と違って、ほんとに「本番」やっちゃってるだけに、さぞかし衝撃受けてるだろうな。
「銀ちゃん……」
「シノハラさーーん、保健室はラブホじゃありませんよ」
「いつからいたの?」
「イトウ先生もさあ、アンタに夢中なんだねェェ。俺が入って来たことに全然気づかないんだもん」
「銀ちゃん!お願い、誰にも言わないで!」
ああ、コレコレ。
全く同じ展開だよなあ。
「奥さんいるくせに、完全に淫行条例に引っかかることしてんのはイトウ先生だよね?アンタ被害者じゃん」
「いいの!それでも……イトウ先生のことが、本気で、好き、なの……」
ふうん。
「本気で好きっていうけどさあ。都合のいい女になってるだけじゃねえの?」
女の目に涙が溜まる。
女を泣かせるのは趣味じゃないけど、ついついキツい口調になるのは、本当は同じ言葉を、愛里先生に言いたかったからなんだろう。
ごめんね、罪もないシノハラさん。
「わかってるわよそんなこと!」
思いのほか大きな声で彼女は叫んだ。
「イトウ先生はどうせ私のことなんか、遊びなんだよね。わかってる」
「……」
「でも……それでもいいの。イトウ先生が、少しの時間でも、私のことを見てくれるなら」
その言葉が俺の心を刺す。
俺もまた、同じようなことを愛里先生に対して思っているからだ。
少しの間でも、俺の腕の中にいてほしいと……。
「アンタだけを見てるんじゃないってわかってても?」
「そうよ」
ああ、ここにも俺の同類がいた。