第17章 人の不幸は蜜の味(銀八side)
俺は右腕をかばうようにして、そっと使われていないベッドの下に潜り込み(こういうとき武道をやっていると役に立つ)、近づいて二人の声をスマホで録音することにした。
本当は動かない証拠として写真も撮りたいとこけど、近づきすぎると気づかれるからな。
「あっ、先生ダメ……」
「大きな声出したら、隣に聞こえちゃうよ」
「だって、イトウ先生の意地悪っ」
「ん?キスしてふさいでほしい?」
「キスして……」
「素直な生徒は好きだよ」
「んん…、ん……」
俺はハラワタが煮えくりかえりそうになりながら、録音を続けた。
自分の我慢強さに、ほとほと感心する。
誰が好きこのんで、人の、しかも、大嫌いな男のセックスシーンを聞きたいなんて思うんだよォォォォ!
そろそろ「終わり」の気配がしたから、俺は使われていないベッドの下で身を潜める。
「先生、来週も保健室で寝てたら、来てくれる?」
「ばか、保健の先生がいるだろ」
「だって」
「いい子にしてたら、車で送ってやるから。な」
そっと保健室のドアを開けて閉める音がした。
チャイムが鳴る。
その音に紛れて、俺もベッドの下から抜け出す。
ややあって、カーテンが引かれ、女子生徒が出てきた。
にやにや笑っている俺の姿を目にし、彼女は呆然とした顔で立ち尽くした。