第16章 銀色吐息(girl's side)
男と同じ布団にくるまって朝まで過ごすなんて、いつ以来だろうか。
すうすうと寝息を立てる彼の顔を、間近で眺める。
色白の綺麗な肌。
思いのほか長いまつげ。
かすかな明かりの中で煌めく銀の髪。
天使みたいだ、と思う。
その身に何もまとっていない今、背中を探したら、羽根があるんじゃないか。
そんなことを馬鹿なことを考えてしまうくらいに。
女の身体を散々嬲って啼かせてもて遊ぶような男だと、誰が思うだろう。
さっきまでとはまるで別人のような、罪のない寝顔。
思わず、黙っていれば端正なその顔に触れる。
私のものだったらいいのに、そう思いながら。
その瞬間、彼のたくましい腕が私の身体を抱いた。
高校生にしてはがっちりした彼の腕に、私の身体はすっぽりおさまってしまう。
子供のように高い体温にくるまれる心地よさ。
「……にゃむ」
寝言が耳をくすぐる。
何か言ってる。
可愛い。
なんて可愛いんだろう。
私の話を熱心に聞いている彼を見ると、自分の存在を肯定されたような気持ちになる。
私がまた彼の話に耳を傾けるのは、その代価なんかではない。
私自身がスポンジのようになって、彼の存在を身に染みこませたいと思っているのだ。
あさましいことに。
先日誕生日プレゼントとして彼にあげた小説は、年上の女性とつきあっている高校生が主人公だ。
でも二人のなれそめは語られない。
とても魅力的なその主人公の少年とつきあっている年上のヒロインをうらやましいと思っている自分に、困惑する。
彼に与えられる快楽を身体が深く刻み込む前に、離れてしまわなくてはならなかったのに。
彼の体温にくるまれてまどろむ幸せを知ってしまった。
家に置いてきた指輪は、むなしく鈍い光を見せているだろうか。
もはや私を護ってくれるものなどない。
胸を貫く、失うことの不安。
これは、未来ある少年に身体を投げ出し、一緒に地獄に引きずり下ろそうとする愚かな行為に与えられた罰だ。
なのにこの腕のぬくもりに抱かれていると、その不安さえ消えてしまう。
地獄に落ちる者を救う天使の羽根。
ああ、神様。
どうかお願い、これが地獄に落とされる罪なら、私だけを地獄に落としてほしい。