第13章 特進クラス争奪戦(銀八side)Rー18
「別にここの施設で働かせてもらってもいいんだけどさ。勝手もわかってるし」
「へえぇ、殊勝なこと言うじゃないか」
「まあな。恩返しっていうか」
「お前、大学に行く気はないのかい」
「へ?」
変な声が出た。
全く想像してなかった言葉だったからだ。
「ここに就職するにしてもさ、大学で勉強したあとに就職したって悪くないだろ。今ここにいるスタッフだって半分以上大学出てるんだから」
「……でも……」
「でも、なんだい」
「金が……」
「公立の大学だったら何とかなるくらいの金はあるよ。私立に行きたいんなら、奨学金もらいな。生活費はバイトで何とかなるだろ。家はホラ、あるんだし」
「へ?」
また変な声が出た。
「ああ、アンタは知らないんだね。松陽先生の遺産。お前にまとまった金を残してくれてるんだよ」
「は?」
「アンタが進学するか、結婚するかしたときに使えるようにって。事故だったからねえ、正直どれだけ金積まれたって、松陽先生の存在には代えがたいわけだけど」
「そ…な……」
「今その金くれってもダメだからね。大学行くのに使うか、結婚するときに、結婚式の費用の足しにするか。でも、アンタの成績じゃ、行ける大学なんてあるのかね。まあ、専門学校に行くっていう手もあるか。アンタ器用だし、美容師とかパティシエなんかもいいかもしれないね」
「……」
「とにかく、しばらく考えな。三者面談では、そういう話もしておこうじゃないか」
「あ、ありがとう、ババア」
「礼は、松陽先生に言いな」
俺はリビングルームの隅の仏壇に向かい、線香を立てて手を合わせた。
穏やかな遺影が俺に微笑んでいた。
卑怯なやり方で、好きな人を抱くような男に、お金をかける価値があると思ってくれたのだ、この人は。
俺は、どうやって恩を返したらいいんだろう。
自分が情けなさすぎて、悲しくなる。