第13章 特進クラス争奪戦(銀八side)Rー18
そんなわけで、二学期の中間考査に向けていきなり勉強しだした俺らに、先生方は目を丸くしていた。
(あのイトウとかいう教師と顔を合わせずに済んだのは幸いだった)
もともと辰馬は英語が良くできたし、全蔵は歴史が得意だ。
俺には何も得意な教科がない。
だから俺が愛里先生のところに質問しにいこうとすると、なぜか「抜け駆けするな」と二人とも一緒にやってくる。
おかげで愛里先生と二人っきりには全然なれない。
ちぇー。
「だから、『けり』には二つ意味があるのよ」
「……?」
「『間接伝聞過去』と『詠嘆』!」
「そう。自分の経験していないことに使うのが『間接伝聞過去』。『詠嘆』は『そうだったか』と、この時気づいたということを表すから、『気づきのけり』とも言われるの」
「なんで同じ言葉なのに、二つ意味があるんじゃ」
「もともとは『詠嘆』を表す助動詞だったのよ。でも、『詠嘆』、つまり『気づきのけり』って、『~だったのか』っていう感動を表すわけだから、必ず『~』という事象が起こった後でしょ。起こった後だから『過去』という意味もできたの」
「なるほど」
「この二つを区別できないとまずいんでしょ」
「そう。一つルールがあって、和歌の『けり』は、必ず『詠嘆』。あとは文脈判断」
「文脈判断かあ。難しいな」
「問題を見て。『翁丸なりけり』。『翁丸』って何だかわかる?」
「いや……」
「犬の名前なの」
「……渋すぎるな」
「しょうがないよね、1000年前のネーミングセンスだから、そこは。現代語訳するとどうなりそう?」
「『翁丸だったそうだ』」
「うん、『間接伝聞過去』でも訳せそうだけど、ここは『翁丸だったのだ!』という『詠嘆』。でもこれはちょっと前後の文脈がないから難しい問題ね。宮中から追い出された犬が、再び戻ってきて、下男に叩かれて人相が変わってるんだけど『翁丸?』って聞いたら『わん!』って鳴いて、それで『翁丸だったのだ!』ってなるの」
「いい話じゃ」
「忠犬翁丸だな」